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 まず、肝臓がんに強い名医の第一条件とは何だろうか。言うまでもなく、がんの最新知識が豊富で、かつ診断と治療技術にすぐれているかどうか、だ。  私は、肝臓がん手術の第一人者を東大病院に訪ねた。幕内雅敏・東大大学院医学系研究科教授。世界トップクラスの消化器外科医であり、専門医のだれもが「名医中の名医」と認める。一九四六年生まれ。国立がんセンター手術部長から信州大学医学部第一外科教授を経て九四年、現職に。その素顔は話し好きな毒舌家だ。  肝臓がん手術は、いわゆる「術中エコー」という治療テクニックが基本中の基本だ。超音波発生装置(探触子)を手術室に持ち込み、外科医白身が超音波を肝臓全体に当てつ つ、がんの部位を正確に突きとめる。この治療法を考案したのが、幕内教授である。術中エコーがまだ存在しなかった八〇年前後までは、肝臓がん手術ぱきわめて危険度が高く、十人中二人が手術中に死亡するという悲惨な運命をたどったという。  また、暗褐色の肝臓は血液の塊のような臓器だ。が、その入り口(門脈と肝動脈)をつまんで血流を止めれば、血液が肝臓に流れなくなり、メスを入れても血は噴き出ない。輸血の必要もなく、手術の成功串は必ず高まる。最初にそう着想したのも幕内教授その人だ。 言ってみれば、一流外科医の手術へのこだわりが、同教授に対する世界的な評価を決定づけた。その評価とは、「世界中で最も成功率の高い手術手法を確立した外科医」というものである。  ほぼ同じ時期、前述したエタノール注入療法がわが国で開発され、手術以外の新しい治療法として注目を集めた。以来、手術は外科医の仕事、エタノール注入療法は内科医の仕事という、肝臓がん治療の「対立の構図」が生まれた。しかし、患者側の関心はただ一点だ。がんで命を奪われないためには、一体、どちらを選べばよいか。外科医の幕内教授は、「長期の生存率は、手術のほうが良好です」と言う。そのとき同教授は、「こういう治療データを知っていますか」と興味深い内容の調査報告書を取り出した。日本肝癌研究会編『第十三回全国原発性肝癌追跡調査報告1994年~・1995年』。各地の病院で肝臓がん治療を受けた一万四千六百七十六人(過去八年間)の肝臓がんの治療データだ。手術が一万二千五百九十五人、エタノー・ル注入療法が二千八十一人。  うち、早期の肝臓がんに対する治療成績(五年生存率)の違いはと言えば、手術が六四・一パーセント、エタノール注入療法が四七・一パーセント。この数字は、明らかに手術の治療成績がよいことを物語っていた。  ただし、エタノール注入療法も、一センチ以下のがんなら五年生存率が七八・八パーセントと治療成績がよく、患者側の選択肢となり得る。あなたが治療法の選択に迷ったときには、今かかっている病院の医師に向かって聞くことだ。「先生のおすすめはベストの治療法ですよね」と。 放射線治療と乳がん  乳がん治療の世界では、癌研病院(東京都豊島区)の乳腺外科チームが「日本一」と評判高い。その秘密は、乳がん手術の巧みさにある。一方、放射線治療が強い京都大学病院は、早期乳がんに対する乳房温存療法の好成績で知られる。  乳房温存手術の医学的な条件は、 ・がんが小さい(最秀二センチ以下)。 ・乳房内のがんが乳首から五センチ以上離れている。  という二点。温存手術後に、補助放射線治療(二十五回)を組み合わせると放射線が目に見えないがんに効果を発揮し、がんの再発率もわずか数パーセントのレベルまで下がり、永久治癒率が九〇パーセント以上になる。  特に、京都大学病院は、先端的なCTシミュレータ(高精度三次元治療計画システム)を駆使して外科と放射線科、内科が力を合わせ、患者一人ひとりに最も有効で的確な放射線治療を実現させた。CTシミュレータとは、高速撮影可能なCT撮影装置と放射線治療計画専用コンピュータ、レーザー投光器の三つを組み合わせ、平岡侃寛教授(放射線科)が世界で最初に開発した。  つまり、外科医が「小さな手術」(乳房温存)を行ったあと、放射線科レベルでハイテク治療システムを駆使しながら、まず治療計画専用コンピュータで最適な範囲や方向を事前に決定し、がん病巣のある部位へのみ正確に放射線を照射する。そのあと今度は、内科医が全身的な補助療法(抗がん剤療法やホルモン療法)を上手に組み合わせる。それで大部分の早期乳がんは治るのだ。  同大学病院のもう一つの秘密兵器が、「マイクロセレクトロン」(高線量率小線源治療装置)。前に触れたが、小線源治療とは、放射線を発生する物質(放射性同位元素)で出来た小線源を用いる放射線治療のやり方だ。がんを集中的に狙い撃ちできるのが最大の利点である。具体的には、京大放射線科が独自に改良したCTやMRIでがんを確認し、あらかじめガイドチューブをその部位に留置しておく。そして実際の治療時は、コンピュータによる遠隔操作という最新手法で放射性同位元素(イリジウムー92)の小線源をガイドチューブのなかに通す。がんに向かって放射線を集中させることができる分、治療効果が高く、逆に副作用は少ない。  最近は、乳がん以外にも、肺がん、気管支がん、食道がん、胆管がん、舌がん、口腔底がん、頬粘膜がん、子宮頚がん、子宮体がん、腔がんなど十種類ものがんが、小線源治療の対象になる。先端をゆく大学病院の実力だろう。  放射線治療は、医師の技術的な習熟度が治療効果を大きく左右し、第一線の専門家がいる病院といない病院とでは治療成績に差がある。全国規模では六百五十から七百の病院が最新の放射線治療設備を備えているにもかかわらず、なぜか「放射線専門医」を名乗れるスペシャリストはせいぜい二百七十人程度。一般国民の全く知らない、日本のがん医療の歪みの構図だ。  いちばんの問題は、放射線の専門医が不在の病院で「あなたのがんは放射線治療が効かない」と誤診されたりすることだ。何も知らずにそんな病院にかかると、放射線の治療効果は思わしくないし、副作用が多いもの。そういう目に遭わないためには、放射線治療を受ける際、患者側が「この病院にぱ放射線専門の上手な先生はいますか?」と確認してみることである。  再発がんの放射線治療について、患者側が最新情報を知っているかどうかが生死を分ける。少し前までは、がんが脳転移したらおしまいだと悲観的な見方も強かったが、最近、これに対してはガンマナイフが有効とされる。  ガンマナイフは別名「見えないメス」。脳内部の治療位置をMRIやCTの画像とコンピュータで割り出し、ピンポイントで転移病巣を狙い撃つ。実際の治療では小型フいIム(四角い金具)をこめかみの両側に取り付け、放射線の一種であるカンマ線を一点に集中照射する。すると、カンマ線がまるで病巣をナイフで切り取るような治療効果を発揮し、脳転移したがんが数カ月後には消失するのだ。この治療に要する時間は照射一回分で数分間と短く、治療前の検査も含め入院期間が一泊二日間ないし二泊三日間程度。現在、ガンマナイフを設置した病院が全国に四十二表2)を数え、ホスピスをすすめられた進行がんの患者が延命できるケースもある。 抗がん剤の最新治療法「クロノーテラピー」  欧米先進国のがん医療とは違い、わが国の場合、抗がん剤治療のスペシャリストぱ放射線の専門医と同じように数が少ない。全身に隠れたがんをターゲットにする抗がん剤治療は、がんを小さくしてから手術する術前療法や、早期がんに対する補助療法(手術で取り残したかもしれない微小がんを退治する治療法)として有効である。

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